貴重な経験

9月からブログの更新が減ってしまった。
両親の病院通いの回数が増えて、それにつきそっているのが原因、というわけではない。原因ではあるけれど、それはそのひとつにすぎない。いろんな用が重なって、というより連なって、じっくり文章を書く時間がなくなってしまったのだ。時間があっても、疲れていて、文章を書ける状態ではなかったりもした。

いろんな用のひとつに名演の学習会の準備があった。11月『王女メディア』の学習会。
最初の運営委員会では、「講師を呼ぶのではなく、わたしたちで学習会をしましょう。メディアがなぜじぶんの子供を殺したのか、それを子のあるひと、ないひと、男性、女性、それぞれの立場から、話しあってみましょう」という意見がでていた。

ところが、いざ運営サークル会で意見を聞くと、賛成が得られなかった。
どうするか。それは後にして・・・。

そのサークル会(第1回)は、運営担当のサークルが集い、これからどういう取り組みをしていくかの話しあいである。そのとき作品の紹介をわたしが担当した。3年前に上演のDVDを観たからだった。
『王女メディア』は、夫イアーソンがその土地の王女を新しく妻にむかえるというので、妻メディアと息子ふたりを国外へ追放する、という話ではじまる。メディアは夫への復讐に新しい妻と息子ふたりを殺して逃亡する。ストーリーじたいはとてもシンプル。
ところが、メディアの思いや感情の揺れは複雑で、その揺れ、起伏を、すぐれた役者によって、ぞんぶんに堪能できるのがこの芝居の魅力である。

「わたしはずっとあなたのために尽くしてきました」というメディアの台詞がある。夫イアーソンはなんて悪いやつなんだろう。
けれど、悪いやつにも、なにか事情があるはずだ。

エウリピデス作、『王女メディア』はBC431年に上演された。観客である当時の男性市民にはメディアやイアーソンにまつわる伝説はよく知られていて、エウリピデスはそれをもとに『王女メディア』を書いたのだった。
その伝説を、作品紹介のときにすこしつけたして話をした。すると、それはおもしろい、その伝説を知っているのと知らないのとでは、観るときの印象がちがうので、10月はじめに配布する名演ニュースに載せましょう、ということになった。

そして、学習会について運営委員で話しあううち、4人の委員がつぎのことについて調べ、発表することになった。
「歴史的、地理的背景」「背景にある伝説」「メディアの心理学的考察」「役者平幹二朗」

わたしは「背景にある伝説」
その時点では、Wikipediaで調べただけだったので、それでもいいかと聞いたら、それでいい、ということだった。それならやります、と引き受けた。が、学習会で発表するのに、Wikiの知識だけでは申しわけないと思い、本棚をさがした。
あった。『ギリシア神話』呉茂一著 初版昭和44年。わたしの持っているのは、昭和54年23刷。

たぶん、当時、ギリシア神話を読まなくちゃ、という思いで、買ったのだろう。ところが、シオリは50ページくらいのところにはさんである。読みはじめたものの、聞いたことのない人名がゴチャゴチャでてくるのに辟易して興味をなくしてしまったのだ。若かったわたしは、まだギリシア神話にでてくる人物の名をほとんど知らなかった。

それから30数年、神話のエピソードや人物を映画やCMやらで小耳にはさんだりして、ちょっとだけ、「あ、それ聞いたことがある」といえるようになった。ありがたい。歳はとるものだ。

今回はその本のなかの、「アルゴー遠征の物語」と、関連する人物の章を読み、レジュメを作った。そして、この際、ぜんぶ読んでみようと思ったが、やはり知らない人物がひしめき、押し寄せてきて挫折した。まあ、直接は「メディア」と関係ないからいいや、となさけないじぶんにいい聞かせた。

たまたま芸術新潮10月号がギリシア神話の特集で、これも役にたった。

ある日、発表者のひとりからメールがあった。
「客寄せに肩書をいれようと思う。じぶんは大学教授だけれど、じぶんだけ肩書を書くのもなんなので、あなたも書いてください」
えっ! いや、そのひとが大学教授というのは知っていたけれど、わたしに肩書書けだって? わたし無職主婦ですよ。
しかたがないので、昔むかしのわたしのことをチョロっと書いておいた。名演の関係者にはずっと何十年も話したことがなかったチョロ。ていうか、わたしを昔から知っているひとしか知らない、話したことがないチョロ。

さて、その後、ほかの発表者の肩書を見てびっくり。元校長で現在カウンセラー、劇団主催者。
なんなんや、わたしだけ素人やないか。

わたしは今までに大勢の前で発表などしたことがない。昔、夫が仕事で発表の前に家で練習していたことがあった。それで、わたしも練習してみた。あせった。しゃべれない。えー、とか、あの、とか、沈黙がつづいて・・・。
それでレジュメにメモを増やし、説明を書いた付箋をはりつけたりして、なんとかでだしの「えー、あのー」とかは省略できるようになった。ふう。えらいこっちゃ。

練習しているときに、夫が顔をだしたので、「恥ずかしいから、聴かないでよ」といったら、ひとに聴かせるのに、それはないだろ、といわれた。そして、そのとき2つのことを注意された。
1:レジュメを読んでいる声が聞こえてきたけど、レジュメは読むものではない、それをもとに解説するのだ。
2:制限時間を守れ。

はいはい、そうしましょ。でも、夫にはやっぱり聴かせなかった。

さて、そういうわけで、学習会は16日に昼と夜の2回あり、ぶじ、いや、ちょっと間違いがあってあとで悔やんだけれど、どうにか「忙しい、余裕がない」ということの心理的峠は越えた。

メディアの夫イアーソンは、浮気なやつだけれど、こころはやさしい。野心家なのもしかたがない過去があった。メディアがどれだけイアーソンに惚れていたか、尽くしたか、というのもわかった。ちょっと興味のあったヘカテ(月の冥府の神)についても調べることができた。
それは、またここに書くことがあるかもしれない。

学習会は、ほんの10人くらいしか参加しないのでは、と思ったひともいたようだ。けれど、わりに盛況で、なんとほかの鑑賞会からも参加があった。
何十人も前にして、作ったレジュメをもとに発表するという機会はもうないと思う。今は、貴重な経験ができたことに感謝している。



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モッツァレラのアンチョビのせ。雑な盛りつけで、恥ずかしい。プランターで育てたバジルは、このところの日照りつづきで枯れてしまった。秋なのね。でも、なんだ、ここ数日の夏日は!!!

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プロフィール

風のミランダ

興味の対象は演劇、映画、文学です。趣味は彫刻、写仏、乗馬など。何十年も生きてきて、話題盛りだくさん、といきたいところですが、あんがい狭い?