ヘキサグラムと魔女叔母さん

馬の手入れで黒目が傷つき、目尻にできた引き損ないのアイラインのような傷は、1週間たってようやく目立たなくなってきた。ケガの翌日、いろんなひとに会ったのだけれど、だれにも、ひとことも、言及されなかった。

はて、顔の美醜にかかわることは、「わあ、片方だけ、ひどい垂れ目のアイライン引いちゃってえ」とか思っても、だまっているのがエチケットなのか。それとも、ひとの顔って、ほかのひとと区別さえつけば、あんがいどうでもいい? 美人以外は顔があるだけマシ、と思ったほうがよいのだと、今回つくづく感じた。

そして第1関節で折れ曲がった夫の左手薬指は、現在ギプスで固められている。
ふたり一緒にケガするなんて、仲がいいのね、と友人からメールが来た。そうなのだ。ふたり一緒にすることはいまやケガくらいしかない。お祓いでもせねばならぬか。ギプスを見たいかたは、こちらへ→薬指のギプス(10月7日の記事)

今週は父の通院の付き添いで、実家に2泊した。わたしが実家へ行くのをねらって、叔母も実家へやってきた。母の家事負担を減らそうと、作り置き用の料理をしたり、掃除をしたり、片時もじっとしていない。じっとしているときは、うたた寝をしている。うたた寝をしていないときは、何かを作りまくっている。その活力にはだれも勝てない。

その叔母が、わたしと夫とサンタが帰るときについてきた。うちの庭の手入れをする、と突然宣言したのだ。実家から車で高速を使って1時間ほどで家に着く。着いたとたんに家で一服もせず、庭でそのままエプロンをつけ、帽子をかぶり、大鋏を振りまわしはじめた。

うちの庭はこの頃手入れしていない。それでも夫が10日ほど前にゴミ袋ふたつ分、わたしが数日前にゴミ袋ひとつ分の草取りはしたのだった。が、生け垣や木は繁りほうだい、灌木も草も芝生も密生して、夏のあいだはそれなりに涼しい庭ではあった。べつにそう不自由もなく、ただ、鉢の置き場所に迷ったために伸びすぎた薔薇のツルがじゃまではあったけれど。

叔母の剪定はすさまじかった。夫がたまにする剪定は、遠慮がちですぐその成果が感じられなくなる。が、叔母の剪定は、切りすぎじゃないの、と思うほどのプロっぽさだった。
数時間で庭はすっかりあかるくなった。

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すると、庭のまんなかにレンガで作ったヘキサグラムが、ひさしぶりにその全貌をあらわした。ヘキサグラムの左上にある灌木、これはローズマリーなのだけれど、これが伸びすぎてヘキサグラムの半分をおおっていたのだ。(ローズマリーは、写真で見えている枝部分だけになった)

このヘキサグラムはここへ越してきてすぐに、わたしが作った。凹凸があってきれいな出来ではない。けれど、いちどこれを取り払ったときがあって、そのとき心の状態が不安定になったのを感じた。
家のなか、居間からこの図形を正面に見ることができる。庭にこの図形があると、たとえば身体の中心軸のように、心のなかに中心軸、あるいは別役実の電信柱、のような働きをしているのを感じる。

元気がでる、というほどではないが、これを見ると安心する。落ち着く。
ロボットが知能だけでなく心を持つときがくるだろうといわれている。そのロボットのもともとの最初は、こんなヘキサグラムのような形からはじまったのかもしれないな、と思ったりもした。
よくいわれることだけれど、形には力がある。形が複雑化したのがロボットであり、人工知能であり、人間なのだ。心は、複雑化するどの過程ではいりこむのか、そんなことは、わからないけれど。

ところで叔母は暗くなるまで庭仕事をして、夕食のあとは洗い物をかたづけてくれた、だけでなく、台所じゅうを磨きまくった。なんというバイタリティだ。そして翌朝は、たばねた枝の山をゴミ回収場へはこび、さらに草の繁ったプランターの土を手入れし、そのひとつは、あとで気づいたのだけれど、そのへんの植物をバランスよく植えてフェンスに掛けてあった。魔女だ。叔母こそ魔女だ。

昼は外へ食べにいった。1700円のランチ。そして叔母をJRの駅まで送っていった。叔母の家までは、JRに乗る時間だけでも1時間半かかる。そこから自転車に乗って帰るという。

叔母は台所で洗い物をしながら、ニコニコしていった。「娘のうちへ、手伝いに来たみたいやな」(半分京都弁ぽいイントネーション)
そう、叔母の血つながりの娘と息子はどこにいるのかわからない。いまは再婚先の亡き夫の連れ子である息子一家と暮らす身なれば、実の娘をわたしに重ねあわすのも無理なからんとおぼえけり。チョンチョン。

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実家で2泊、その翌日は叔母さんと同じ部屋でひと晩寝て、サンタ、愛想ふりまきすぎて、疲れました。

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プロフィール

風のミランダ

興味の対象は演劇、映画、文学です。趣味は彫刻、写仏、乗馬など。何十年も生きてきて、話題盛りだくさん、といきたいところですが、あんがい狭い?