合気道と「気」:その2

肩こりが治るなら、はいる! と、合気道部にはいったわたし。
道着(柔道着)に濃紺の袴をはいて、畳のひろい道場で受け身の練習です。前受け身、ひろい道場をただひたすら前へ転がる、転がる。くわしくいえば、右手を胸のあたりにおいて、あごを胸につけ、右肩を基点に前へヒラリと回転する。その連続。左肩基点もおなじです。
つぎはうしろ受け身の練習。うしろへ回転するだけ。その連続。

いまでも、これだけはできます。ただし、せまい家のなかでは1回転がるのが限度です。
この受け身の練習は肩がほぐれて気持ちがいいですよ。

週に1度、会社がひけると地下鉄でひと駅さきの道場へむかいました。名古屋では有名な飲み屋街の女子大小路を抜け、ちいさな公園のあるところが目印。民家の庭のようなところへはいっていくと、道場でした。

合気道部は本社から転勤してきたT課長が中心になってできたもので、ほかに男性部員はKさんがいました。T課長は黒帯で、Kさんは白帯でした。ほがらかだったKさん、大酒飲みでそのせいか顔色がよくありませんでした。本社へ戻ったあと亡くなったと聞きました。たぶん40歳前後だったはず。
死ぬほどの大酒だったのでしょうか。なぜそんなに飲むのか。それは彼にこどもがいないせいだ、とうわさされていました。
こどもがいなくてさみしいから、大酒を飲む? 嘘でしょう。
わたしにもこどもがいませんが、大酒は飲みませんよ。さみしくもないですよ。

ところで、道場へ行くには、若い女の子には物騒な女子大小路を通り抜けなくてはならなかったので、たいていT課長かKさんが一緒でした。が、みんなで通れば怖くない、ということで、男性がいないときは、たくましい先輩女子たちが頼りでした。

合気道の先生は、東京から通いでいらしていました。
若くてハンサム、結婚したばかり。やや小柄でしたが、姿勢がいいのでおおきく見えました。いや、おおきく見えたのは、先生の全身からはっしている「気」のせいだったのでしょう。
むせかえるような色気です。湿りをおびた緻密な「気」が全身から感じられ、目があうと、そこから濃密な世界へと引きこまれそうでした。

好きになったのではありませんよ。ただたんに、先生がセクシーだった。それだけです。

稽古は、先生とT課長がくみ、先生が技をかけ、T課長がそれを受ける。ふたりひと組です。先生とTさんの型を見て、それぞれに女子どうしでくんだ相手と技をかけたり、かけられたりの稽古をします。
先生とくむことはありませんでした。たまに稽古をつけてもらうことはありましたが。
そりゃまずいですよ、先生とずっとくんだりしたら。先生の色気にあてられて魔法にかかった蛙になりそう。

大酒飲みといえば、先生もそうでした。
稽古がおわると、新幹線でお帰りになるのですが、その帰り道には女子大小路がありますからね、名古屋駅へ直行されるわけがない。わたしたち全員で先生の接待です。

「臍下(せいか)の1点に気を沈めて」と稽古のときにいわれます。
で、酒を飲むときは、「臍下丹田にストンと落とします。そうすれば酔いません」

それを信じて、ぐっと飲んだビールをお臍のしたの丹田に、ストンと落としたんですけれどねえ、やっぱりコップ1杯で真っ赤なリンゴのおばけ顔になりました、わたし。



ところで、これを書いたあと、たまたまTVドラマで、ひさしぶりに合気道の稽古のようすを観ました。『ナイフの行方』NHKです。息苦しいほどはりつめた空気でしたが、わたしたちのときはもうすこし呼吸がしやすかったような・・・。
合気道の先生は、ドラマのなかの合気道の先生役、石橋凌に似ていましたよ。もっと甘い雰囲気で、あたりまえのことながら、ずっと若かったですけれど。

「これ、山田太一のに似ているね」と夫にいったら、「山田太一だ」といわれました。台詞が段階的リフレインで進行するのが特徴。
山田太一のドラマ、きょうは後編です。合気道の稽古はもうでてこないかもしれませんが。

合気道と「気」の話、なかなか本題にはいれなくて、というより、本題なんてはじめからなかったのかもしれませんが、この話、あと何回かつづきます。



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「大根と人参の鶏そぼろあん」
カリウム制限にいい献立だと、作ってから思いました。




コメント

t.ishikawa

妻が学生時代に合気道をやってました。そのときの先輩が偉くなり、今も都内で道場を開いていて、何度か通おうとしたのですが、縁がないのか、なかなか習い始められません。いつか、ちょっとだけでも囓りたいなあと思っているのですが。いい歳なのに「いつか」なんて悠長なこと言ってる僕には、永遠に来ない「いつか」になりそうですが……。時々、YouTubeとかで昔の合気道の達人の映像を見て、やった気になってます。脳内合気道ですかね。続き、楽しみにしてます^−^

風のミランダ

Re: タイトルなし
t.ishikawaさん、こんばんは。

脳内合気道という稽古のしかたがあるのですね。脳に効きそうですね。v-411

乗馬と合気道はまったく違うから、と思って安心していたら、こんどは奥さまとシンクロしてしまいましたね。
このときの合気道の先生は、某名門W大の合気道部出身でした、と書くつもりでしたが、やめました。ひょっとして、奥さまとisikawaさん、おなじ大学出身でしょうか。もしそうなら、わたしのその先生は、奥さまの先輩ということになりますが。
先生の名前は思いだせません。なにせ30何年も前のことなので。きっかけがあれば、思いだせるかもしれませんが。

t.ishikawa

やはり合気道を習い始めるべきなのかもしれないなあと、思い始めています。昔の日本人の考え方を追体験するには、日本古来の身体技法を、身につけるところまではいかなくても、多少は知っていなければと、ふと思いました。「気」は、その中で、そういう意味を持っているのでしょうか。とても興味があります。「気」の存在を、日本人が意識するようになったのは、いつ頃からなのでしょうか?

ちなみに、妻は僕の幼馴染みですが、大学は別のところに行きました。彼女の合気道の先輩も、たぶん彼女と同じ大学出身です。N大芸術学部ですが、まさか、お知り合いはいないですよね^−^;;

風のミランダ

Re: タイトルなし
t.ishikawaさんへ。

合気道を始められるといいと思います。お仕事に役立つかもしれません。

「気」の歴史については、知識がないのです。合気道にかんする本を読んだこともなくて。
wikiで合気道について調べていたら、創始者の植芝盛平についての本を読みたくなりました。

N大芸術学部出身の方を知らないわけではないのですが、残念ながら親しくありません。

合気道にも流派がいくつかあります。良い出会いがありますように! v-254

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プロフィール

風のミランダ

興味の対象は演劇、映画、文学です。趣味は彫刻、写仏、乗馬など。何十年も生きてきて、話題盛りだくさん、といきたいところですが、あんがい狭い?