『あなまどい』 前進座

『あなまどい』前進座
3月13日夜 名演例会

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原作:乙川優三郎

「あなまどい」とは、彼岸をすぎても冬眠の穴を見つけられない蛇のことだそうだ。

江戸時代、下士は上士のまえでは、平伏しなければならないという藩のしきたりがあった。上士上遠野(かとうの)栄之助は、雨のなかを、重病の妻を背負って通りがかった寺田金吾に平伏を要求する。

金吾と妻は雨にぬれながら、地面にすわり、頭を地面にすりつける。その直後、妻の容態が急変して死亡。逆上した金吾が栄之助を切り殺し、逃亡する。殺された栄之助の息子関蔵は、新婚の妻を残し、仇討ちのため金吾のあとを追う。

・・・物語のはじまりである。
が、のっけから、疑問がわいた。平伏を要求した栄之助は、平伏が終わった金吾の妻の身体を気づかい、必死に手足をさすり、息子関蔵に、救急車を呼んでこい、ではなく、カゴを呼んでこい、と命じるほどの「いい人」なのだ。

そんないい人が、なぜしきたりどおりに、重病人に雨のなかで平伏を命じたのか、という疑問がわく。ほかに人がいたわけではない。息子以外に人はいなかった。栄之助は、上士である自分と息子のためにだけ、雨のなかで平伏を命じたのだ。

どうも、感覚を、しきたりが絶対であった、むかしむかしに戻さないと、だめなようだ。
しかも、関蔵の家の奉公人の女の子の、あまりにべたな泣きの演技に違和感をおぼえてしまう。

これが歌舞伎の子役の演技なら、そういう様式だと思って観るのだが、これは新作である。新作をどう観ればいいのか、わたしの観方はまちがっているのだろうか、と思ってしまったのだった。

しかし、そのふたつの違和感をのぞけば、あとは非常にわかりやすいし、よくできている。
関蔵の妻をないがしろにする親戚や、めんどうを見にくる親戚。
悪人と善人が、舞台にでてきただけで、その区別がはっきりわかる。その演技力と様式には、感嘆した。

30年たって仇討ちの相手にめぐりあい、たがいにうれし泣きをする場面など、意外性があり、しかもよく納得のいくところである。逃げるも追うも、地獄であり、たがいに苦労をした身をいたわりあう。

この場面の前に、旅の修行僧がでてくる。どうも、この修行僧、『どん底』の巡礼ルカを思いおこさせる人物だ。
が、この修行僧、最後にいい役ででてきた。修行僧の精神性の高さがよかった。

さて、仇を討って故郷に帰った関蔵、34年ぶりの帰還である。妻もあれから34年たっている。17歳で嫁いで3か月後にはもう夫が仇討ちにでていった、といっていたと思う。計算すると51歳。それにしては、老けている。
が、人生50年の時代だから、すでに老人なのだ。

若かった頃の妻の毅然としたうつくしさと、背中のまがった老婆の役と、おなじ人が演じているのには驚嘆した。すばらしい演じ分けだ。

関蔵の帰参(藩にふたたび取り立てられること)を妨害する親戚。妨害にめげず家老のもとへ向かう関蔵。
関蔵は、武士と物乞いにどれほどの違いもなく、すべての矛盾は國のせいだ、という意味のことを真率に言上する。

帰参の願いかなった関蔵は、家督を妻の甥にゆずり、妻とともに江戸へむかう。
その道中で、思わぬ真相があきらかになる。

というわけで、苦労し迷いつつ老いてのち、夫婦ともにいたわりあって生きるその姿に感動した、という感想が多いようだが、ひねくれ者のわたしは、ちょっとつっこみをいれたくなる。

この作品は、不合理な社会や体制が、いかに人間性を疎外するかといいたいのであり、その不合理な社会で生きねばならぬ人への愛と共感にあふれている。・・・と、まずそう思った。

しかし、夫婦の愛となると、それは愛と慈しみという抽象的なものを、とりあえず形にしたというふうに感じられる。現実的ではないのだ。
というのも、実際、53歳の妻とそれよりすこし歳上の夫が、江戸へ行って、どうやって暮らしていくのだろう、という疑問がある。しかも徒歩で向かう江戸への道のりはながく、年寄りには過酷に思える。それでも夫は妻を江戸へつれていかねばならないのか。それが愛?

さらに、夫の亡きあと、どうやって妻は暮らしていくのかという疑問。

いや、それ以前に、17歳で嫁ぎ、それから34年、庭の花畑を野菜畑に変えてそれを守って生きてきた、ただそれだけだったのですか、池を潰したときに、池の鯉を食べた、ただそれだけだったのですか、妻は夫はもう帰らないかもしれない、と思いつつ、待ち、暮らした、ただそれだけだったのですか、といいたくなってしまう。

むろん、老いて仲良く、いたわりあう姿には感動するのだが、どうもこれは都合がよすぎるのではないか、男目線だな、という感が否めないのだった。

が、むろん、妻をその設定にしない限り、作品がまとまらないのも、十分承知しているのだけれど・・・。

(原作を読んでいませんが、そこでは疑問に思ったことが、もっと詳細に書かれていて納得がいくかもしれないとは思います。江戸へ行く必然性や、最初の殺しの場面など)


夫が感想を書いています。↓(クリックすると開きます)こちらのほうがわかりやすいし、まともかと思います。
『あなまどい』

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プロフィール

風のミランダ

興味の対象は演劇、映画、文学です。趣味は彫刻、写仏、乗馬など。何十年も生きてきて、話題盛りだくさん、といきたいところですが、あんがい狭い?