悲観、楽観に傾かず、水平飛行でまいります。上空、笑い、いささか寒うございます。お乗りのかたは、マフラー、手袋をお忘れなく。
 さて、父王の死によって、王の座についたヘンリー五世は、領有権を主張してフランスへ侵攻する。
しかし、フランスの町を陥落したものの、イングランド軍は飢えと病で疲弊しきっていた。フランス軍は総力をあげて迎え撃つことになった。100年戦争中の1415年10月25日、アジャンクールの戦いである。

 味方の軍勢5千人、対するフランス軍は5倍の2万5千人。戦いの前夜、ヘンリー五世は身分を隠して野営のテントを回り、兵士たちの士気を高めた。翌日の戦いの直前、ヘンリー五世は兵士たちを鼓舞する。「聖クリスピンの祭日の演説」として有名とのこと。イングランド軍は長弓隊をもちいて勝利した。イングランド側の死者は25人、対するフランス側は1万人。

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(長弓隊)

 なぜ5倍の兵力差があるのに勝てたのかは、イングランド側が長弓を駆使した軽装備であったのに対し、フランス側は人も馬も重装備で、ぬかるみに足をとられて動きが困難だったためらしい。

 映画の中では、25人しか死者がでなかった、というセリフがあるが、Wikiによれば112人とある。フランス側の死者はほぼこのとおりだ。軍勢はWikiによればイングランド側七千人、フランス側2万人とある。5倍ではなく3倍の数だ。シェイクスピアの誇張なのか、当時はこの数字として認識されていたのか、どちらかは不明。

 さて、信長との共通点は、いうまでもなく、兵力差数倍の敵軍に勝利したこと。(1560年桶狭間の戦い)そして、残念なことに、長生きできなかったことだ。
 アジャンクールの戦いの7年後、ヘンリー五世はフランス遠征中に赤痢で急逝した。35歳だった。

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(ヘンリー五世)

 ところで、アジャンクールの戦いで印象的だったのは、ヘンリー五世が戦いのさなか、どちらが勝っているのかわからなくなり錯乱しかけたところだ。彼は捕虜として捕えた何人かをその場で殺させてしまう。

 どちらが優勢なのだ!? そう叫んだときのヘンリー五世の孤独感はあまりに深い。その懐疑、不安はあまりに大きい。

 いったい、目の前でばたばたと人が死んでいくとき、どっちが勝っている、負けている、なんてことに意識がいくだろうか。いや、いくとしても、その前に、死そのものの圧倒的なリアルさのみある世界に、自分が投げこまれている、ただその事実があるだけなのだ。そして我にかえり、彼は叫ぶ。どっちが優勢なのだ!?

 シェイクスピアは権力や栄光の空虚さとその孤独を根底に見据えていた。そもそも、シェイクスピアの作品すべては孤独感、虚しさから出発している。いや、そんなことはあたりまえなのかもしれない。では、もっといおう。シェイクスピアの認識は空虚なる現実が大前提のゆえ、すべての作品は死者の視点をもって描かれていると。そこが魅力なのだ。

 それにしても、このシリーズの王の中で、ヘンリー五世は早逝はしたけれど、幸せな王であったと思う。次のヘンリー六世は、生まれて間もないうちに王に即位した。三代目は家を潰すといわれているとおり、王というより聖職者のように無欲だ。あるいは『ジーザーズ・クライスト・スーパースター』の悩めるキリストを思わせる。彼は父が獲得したフランスの領土をすべて失った。

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(ヘンリー六世、王妃マーガレット)

 フランスから嫁いできたマーガレットにしてみれば、じつに頼りない夫である。で、よくあるように、夫に代わってマーガレットが戦いの陣頭指揮をふるった。いや、それどころか、最初から臣下と謀り夫を裏切っていた。舞台では、ジャンヌダルクとこのマーガレットを同じ役者で演じることがあるという。烈女である。
(映画の中では、ジャンヌダルクは狂信的烈女であり、マーガレットは背信と謀略のすさまじい悪女である)

 話がそれた。(この『嘆きの王冠』シリーズの中では)ヘンリー五世は幸せな王だったという話だった。息子のヘンリー六世は妻マーガレットに裏切られ、精神錯乱状態だった時期もあり、最後はロンドン塔で後のチャールズ三世に殺された。五世の父は常に怯えていた。エドワード四世は弟のチャールズ三世(ベネディクト・カンバーバッチ)に裏切られた。そのチャールズ三世は冷酷非道、残虐の極みの性格で、戦場で死んだ。

 もとより幸せなのは誰か、など、それは無用な論にすぎない。ただ、かっこ良さで目立つのがヘンリー五世であり、目立つということでは、ベネディクト・カンバーバッチの演じたチャールズ三世もそうだった。

 次回はチャールズ三世について、ちょっとだけ。




[2017/08/28 21:05] | 映画
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