悲観、楽観に傾かず、水平飛行でまいります。上空、笑い、いささか寒うございます。お乗りのかたは、マフラー、手袋をお忘れなく。
藤井聡太4段が話題になっているせいか、この頃しきりに思いだす光景がある。
囲碁部の合宿にむかうバスの中でのことだ。

しかしその前に、部室で用意する碁盤と碁石のことを書いておこう。
合宿に持参する碁盤は折りたたみ式だった。碁石を置くとカシャンとなさけない音をたてる。持ち運ぶから折りたたみ式なのではなく、部室にはそれしかなかった。碁石は黒白ともにプラスチック製だった。

石は菓子箱に似た木製の容器碁笥(ごけ)にはいっている。
そのままでは簡単に蓋が開いてなかみがこぼれてしまうので、容器の蓋をセロテープで十字に固定した。それを、ビニールで補強した大きな紙袋にぎっしり詰める。紙袋はデパートなどでもらうような持ち手のついたものだ。

折りたたんだ碁盤も同じように紙袋にいれた。碁盤、碁石ともにけっこうな重さになる。
さあ、準備ができた。
だれかが碁石のはいった紙袋を持った。それはわたしだったかもしれないが、よく覚えていない。バスのステップをあがるとき、つまずいて、紙袋から碁石の容器がとびだした。

そのとき、碁石の蓋が開いて中の石がこぼれてしまった記憶なのだが、ほんのすこし紙袋の中にこぼれただけなのか、もっとこぼれてバスの床に転がったのか、どれが事実だったのか覚えていない。

記憶では、碁石はバスの床に延々と転がり続けている。

記憶を戻そう。
碁石がこぼれたのは、紙袋がちょっと破れたせいだったのかもしれない。わたしでなければ、だれがバスのステップになどつまずくだろう。

碁石をこぼしてしまった人の顔がふたりほど浮かぶのだが、どうもそれも怪しいものだ。
事実は、どうだったのか。
記憶なんてあてにはならない。記憶とは、後から作りあげる行為そのものだといってもいい。
ま、そんな些細なことは、刑事事件でもないのだから、どうでもいいとして・・・。

名古屋市内で合宿するとき、よく利用したのが星が丘にある大乗寺だった。星が丘駅の北の坂をのぼっていった所にある。
今、星が丘は特に駅の南周辺がすっかり変わってしまった。このあいだ星が丘に行ったとき、某メガバンクのATMが何十台もぎっしり並んでいるのを見て恐れをなした。

ATMの1台1台は金を喰う機械だけれど、その1台1台を巨大な歯と見なせば、ぎっしり並んだ歯を見せて大口を開けている亡霊がいる。まるで「となりのトトロ」だ。トトロみたいな大口を開けていて、トトロほどの愛嬌もない。

ATMのスリット口とは別に、トトロみたいなその大きな口は見えないけれど、確実にある亡霊は、どんな数でも桁でも、パクリと喰ってしまう。喰ったり吐き出したり、それが亡霊の餌なのだから、数そのもの、つまり金そのものが亡霊なのだろう。

そんな怪物がいるのに、となりのカフェテラスでは、若い人たちが平気でお茶を飲んでいた。

星が丘駅のすぐ南の店は、当時は場末の店、という雰囲気だったが、今では照明のあかるい洒落た店に変わっている。あの頃は、ここで朝食のカップラーメンを買ったものだ。

ところで、藤井聡太くんが小学生の頃、将棋のことを考えながら歩いていて側溝にはまった、ということが、いかにも天才にありそうなこととして、新聞に得意げに紹介されていた。

いや、そりゃ、そんなこと、あるでしょうよ。べつに珍しくもなんともないよ。天才のエピソードとしては、特筆するほどのことでもないでしょう、と思ったのは、熱中してドジをする、というより、ぼんやりしてうわの空でドジをするわたしにはとても思いあたるからだ。

が、こんな凡人でも、熱中したときの神経症的な、妙な頭のはたらきを経験したことはある。

合宿中は3度の食事以外は、朝から夜遅くまで碁を打つ。
外へ行ったついでにすこし遊んだことはあったが、合宿所の中では1日中、黒、白、黒、白黒白黒、白、黒、と考えている。まったく、それ以外に何もしない。

それで夕食のために皆で寺をでて、星が丘駅付近の交差点で信号待ちをしていたとき、そこにばらばらと立っている男子が黒石、女子が白石に見えたものだ。ああ、この配置はひどい、石のはたらきが悪い、模様が美しくない。それで信号が青になって歩きはじめると、配置が変わって、あ、いい模様になってきた、と思ったり・・・。

大乗寺の本堂をよぎってその奥が、合宿していた部屋だった。夜、碁盤を片づけて布団を敷いて寝る。仰向けになると天井が碁盤だ。つまりその天井は、お寺のお堂特有の、縦、横、同じ間隔で木が組んである碁盤の目状なのだ。
そこで、つい、その天井の碁盤で、黒、白、黒白、黒、白、と石を置いてしまう。
きっと拷問にあったら精神がおかされやすいタチなんだろうと思う。

当時、20手先くらいまで読めたかどうか・・・。もう何十年も碁を打っていない。今はたぶん数手先を読むのがやっとだろう。
プロがどれほど先まで読むのか知らない。相当先まで読める世界は、わたしなどには想像もつかない。

碁とは別に思うのだけれど、たとえ何十手先まで未来を読んだところで、相手がどう出るのか、つまりどんな事態が待ち受けているのか、まったくわからないのがこの世のならいだ。

藤井聡太4段が、加藤一二三9段がしたように、相手の側に回って、相手からどう見えているか盤面を確認した、ということが話題になった。

たぶん、わたしが囲碁で学んだことも、それに近いことだったかもしれない。
自分の石が囲んでいるところが自分の領地だと思っていても、じつは自分の石は相手の石に囲まれている、ということだってある。そこは自分の、ではなく相手の領地だ。それに気がつくのは、意識を切り替えたときだ。思考を反転させたときだ。
固定観念は恐ろしい。視野が狭いと、局面を見誤る。いつも柔軟な思考ができるようにならなければ!

だから、先が読めることよりも、石頭をいかに柔らかくするか、柔軟に対処できるかが重要だと今でも思っている。
たぶん、固定観念やら執着やらは、吸う息のようにあたりまえに我が身にはりついてくるものだろうから。

IMG_2084_convert_20170717114151.jpg
ゴロン。

IMG_2085_convert_20170717114230.jpg
ゴロン。

IMG_2086_convert_20170717114304.jpg
トウ。
反転世界が見えるぞ。




[2017/07/17 22:00] |
トラックバック:(0) |


Sheherazade
何でも碁盤に見えてしまうというの、よくわかる気がします。最近、そういう力が弱くなったなあ‥。囲碁はぜんぜんできないのですが、碁盤と石だけはもってます。何年か前に覚えたくて、独学したのですが、誰とも手合わせしないうちに、くじけてしまいました。ヘボ碁が打てるようになりたい(*´-`)あ、昨年からの約束(?)なかなか果たせずごめんなさい。何度か京都に行ってるのですが、なんかぜんぜん予定通りに物事が進みません。原稿も一向に進まないし‥。呆れてなければ、気長にお待ちくださると嬉しいです。

Re: タイトルなし
風のミランダ
Sheherazadeさん、こんばんは。コメントありがとうございます。v-254

なんでも道具からはいるので、立派な碁盤と碁石がある、とおっしゃってましたね。
わたしは足つきの碁盤で打ったことがあったのか、なかったのか、この記憶も定かではなくなってしまいました。分厚い碁盤に石を置くと、高そうな、いい音がするんですよねえ。それを経験したのかどうだったのかが、思い出せません。やれやれ、^ - ^;;です。将来は、老人ホームで、立派な碁盤を持っている人を見つけたら、相手をしてもらおうと思っています。

わたしのほう、ここ何か月もひどくストレスだった事態が、先週ようやく収束しました。なので、ちょうど良かったのです。気長にお待ちしておりますよ。なんなら、老人ホームに越したときに、碁盤を持って遊びにいらしてくださいませね。(^ ^)




sheherazade
碁の話、前にしていましたよね。いやー、言い訳ではないのですが、書き込んだ後に、この話以前したような気がするとは思ったんです。思いはしたのですが……。いや、ほんとに……ねえ^−^;;

Re: タイトルなし
風のミランダ
sheherazade さんへ

誰に何を話したかうろ覚えくらいが、これからの人生をたくましく生きていくコツだと思います。全て覚えていたら、新しいことが頭に入ってきません。ま、それくらい歳をとったと達観すれば、ひとまわり器が大きくなりまする。・・・歳上のわたしからのアドバイスでした。*^ - ^*



sheherazade
いやー、今に始まった話じゃなくて、若い頃からずっとそうなんです。いろんなことほんとにポンポン忘れます。本や映画も、半年もすると内容をすっかり忘れてしまうので、同じのを2、3回は繰り返し新鮮な気持ちで楽しんでます。妻は「いいねえ」と羨ましがってくれますが……。決して皮肉じゃないと思う。……うーん、この話もかつてしましたっけ?^−^;;

Re: タイトルなし
風のミランダ
sheherazade さんへ

ポンポン忘れるって、何か美味しそうな忘れかたですね。ポンハゼみたいで。ポンポンは、初耳です。(擬態語がいつもユニークでおもしろいです)
情報量が多いかたは、ある程度忘れることが肝心なんでしょうね。狂わないための自己防衛。

そういえば、以前ある短歌をとってもうまい、と言って褒めたら、「これ、ミランダさんが作ったのだけど」と言われたことがあります。
自分で作ったことをすっかり忘れていて、びっくりしました。^−^;;
sheherazadeさんも同じようなことが、ありそうですね。^−^

囲碁
かやのたも
95%以上の確立で私が勝てるゲームで遊んでいます。(時間がないときの時間つぶし?)
55%くらいの確立で勝てるゲームが良いのですが、そう都合の良いソフトには行き当たりません。
囲碁も将棋もやっていて、手を当てれば額が熱くなっているくらいが面白いです。

負けてカッとなる性格は勝負事に向いていないかもしれません。



Re: 囲碁
風のミランダ
かやのたもさん、こんにちは。コメントありがとうございます。v-254

額が熱くなるくらいのゲームですか。95%勝てるゲームでは、額は熱くならないかもしれないですね。

将棋は父に駒の動きだけは教えてもらいました。父に飛車角落ちでも勝てないので、飛車角金落ちでやってもらいましたが、やっぱり勝てませんでした。



コメント:を閉じる▲
コメント:
この記事へのコメント:
何でも碁盤に見えてしまうというの、よくわかる気がします。最近、そういう力が弱くなったなあ‥。囲碁はぜんぜんできないのですが、碁盤と石だけはもってます。何年か前に覚えたくて、独学したのですが、誰とも手合わせしないうちに、くじけてしまいました。ヘボ碁が打てるようになりたい(*´-`)あ、昨年からの約束(?)なかなか果たせずごめんなさい。何度か京都に行ってるのですが、なんかぜんぜん予定通りに物事が進みません。原稿も一向に進まないし‥。呆れてなければ、気長にお待ちくださると嬉しいです。
2017/07/17(Mon) 22:09 | URL  | Sheherazade #fWRVdsCY[ 編集]
Re: タイトルなし
Sheherazadeさん、こんばんは。コメントありがとうございます。v-254

なんでも道具からはいるので、立派な碁盤と碁石がある、とおっしゃってましたね。
わたしは足つきの碁盤で打ったことがあったのか、なかったのか、この記憶も定かではなくなってしまいました。分厚い碁盤に石を置くと、高そうな、いい音がするんですよねえ。それを経験したのかどうだったのかが、思い出せません。やれやれ、^ - ^;;です。将来は、老人ホームで、立派な碁盤を持っている人を見つけたら、相手をしてもらおうと思っています。

わたしのほう、ここ何か月もひどくストレスだった事態が、先週ようやく収束しました。なので、ちょうど良かったのです。気長にお待ちしておりますよ。なんなら、老人ホームに越したときに、碁盤を持って遊びにいらしてくださいませね。(^ ^)

2017/07/17(Mon) 22:52 | URL  | 風のミランダ #-[ 編集]
碁の話、前にしていましたよね。いやー、言い訳ではないのですが、書き込んだ後に、この話以前したような気がするとは思ったんです。思いはしたのですが……。いや、ほんとに……ねえ^−^;;
2017/07/18(Tue) 15:28 | URL  | sheherazade #fWRVdsCY[ 編集]
Re: タイトルなし
sheherazade さんへ

誰に何を話したかうろ覚えくらいが、これからの人生をたくましく生きていくコツだと思います。全て覚えていたら、新しいことが頭に入ってきません。ま、それくらい歳をとったと達観すれば、ひとまわり器が大きくなりまする。・・・歳上のわたしからのアドバイスでした。*^ - ^*
2017/07/18(Tue) 17:00 | URL  | 風のミランダ #-[ 編集]
いやー、今に始まった話じゃなくて、若い頃からずっとそうなんです。いろんなことほんとにポンポン忘れます。本や映画も、半年もすると内容をすっかり忘れてしまうので、同じのを2、3回は繰り返し新鮮な気持ちで楽しんでます。妻は「いいねえ」と羨ましがってくれますが……。決して皮肉じゃないと思う。……うーん、この話もかつてしましたっけ?^−^;;
2017/07/18(Tue) 22:26 | URL  | sheherazade #fWRVdsCY[ 編集]
Re: タイトルなし
sheherazade さんへ

ポンポン忘れるって、何か美味しそうな忘れかたですね。ポンハゼみたいで。ポンポンは、初耳です。(擬態語がいつもユニークでおもしろいです)
情報量が多いかたは、ある程度忘れることが肝心なんでしょうね。狂わないための自己防衛。

そういえば、以前ある短歌をとってもうまい、と言って褒めたら、「これ、ミランダさんが作ったのだけど」と言われたことがあります。
自分で作ったことをすっかり忘れていて、びっくりしました。^−^;;
sheherazadeさんも同じようなことが、ありそうですね。^−^
2017/07/18(Tue) 23:50 | URL  | 風のミランダ #-[ 編集]
囲碁
95%以上の確立で私が勝てるゲームで遊んでいます。(時間がないときの時間つぶし?)
55%くらいの確立で勝てるゲームが良いのですが、そう都合の良いソフトには行き当たりません。
囲碁も将棋もやっていて、手を当てれば額が熱くなっているくらいが面白いです。

負けてカッとなる性格は勝負事に向いていないかもしれません。

2017/07/23(Sun) 06:55 | URL  | かやのたも #-[ 編集]
Re: 囲碁
かやのたもさん、こんにちは。コメントありがとうございます。v-254

額が熱くなるくらいのゲームですか。95%勝てるゲームでは、額は熱くならないかもしれないですね。

将棋は父に駒の動きだけは教えてもらいました。父に飛車角落ちでも勝てないので、飛車角金落ちでやってもらいましたが、やっぱり勝てませんでした。

2017/07/23(Sun) 10:28 | URL  | 風のミランダ #-[ 編集]
コメント:を投稿
URL:

パスワード:
非公開コメント: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック:
この記事のトラックバック URL
この記事へのトラックバック: