悲観、楽観に傾かず、水平飛行でまいります。上空、笑い、いささか寒うございます。お乗りのかたは、マフラー、手袋をお忘れなく。
6年ほど前、舞台で『冬物語』を観た。シェークスピア晩年の作である。
妃が息を吹き返す(?)最後の場面以外、印象がなく、たぶん、それほど感動しなかった。

で、今回は、イギリスの有名な俳優、監督であるケネス・ブラナー出演の『冬物語』
舞台で上演されたものが映画として公開された。日本でもおなじみのゲキシネ(劇場シネマ)は、カメラワークがかなり派手だが、ケネス・ブラナーのシアター・ライブは、それよりは抑制がきいていた。

むろん、ゲキシネは大好きだ。たとえば、シェークスピア原作なら、『メタル・マクベス』(内野聖陽、松たか子主演) 現代に置き換えた思いきった脚色と演出、音楽、そして熱演は、いま思いだしてもわくわくする。

一方、ブラナーの『冬物語』は、正統派の演出であり、カメラワーク、編集を工夫した、といっても、ゲキシネほどの派手さはない。しかし、それゆえにこそ、舞台の中身そのもので見せる作品となっていて、これがかなり良かったのである。

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(チラシ)
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(チラシ裏)

『冬物語』は、王の誤解と嫉妬によって、不義密通の疑いをかけられた妃が牢に幽閉されて死ぬ。その王の悔恨と妃の王への献身、貞淑、そして夫婦の愛の回復の物語だと思っていた。たぶん、そのように紹介されていたのだったろう。

しかし、今回、ブラナーの舞台を観て、それよりもっと大きな視点があることに気づかされた。
王の暴力と妃の絶望、それは加害するものと咎なく罰せられたものとの悔恨と絶望が、たまたま夫婦の関係を借りて表されただけのように思えたのだ。
 
妃が牢で産んだ姫は、王の命令で人喰い熊のいる荒野に捨てられる。捨てにいった召使いは、大声で熊を呼び、自身が熊の餌食となることで、姫を救った。むしろ献身については、妃よりも、この召使いのほうがより感動的であり、妃の献身は、シェークスピアが物語を作るための設定にすぎないとさえ思えた。

妃の献身。もとよりそれを、シェークスピアが本気で描くとは思えない。いや、本気であったとしても、それはファンタジーの中でのみ成立するものであることを、シェークスピアは知っている。

悔恨と絶望。何よりそれがまず最初にあった。人生の苦さ。やりきれなさ。人はそれをどうやり過ごせばいいのだろう。

物語は1幕めで、すでに王の悔恨がはじまっている。突然の怒り、妄想、暴力、そして突然の悔恨。妃は死に続けている。

2幕めは、一挙に時間が16年経過する。異国の地で羊飼いに育てられた姫が、その地の王子と恋愛する場面に大きく時間があてられている。

このふたりの恋のシーンが、牧歌的で祝祭の雰囲気に満ちあふれていた。なにより無垢なふたりの生の横溢が、感動的だ。姫(ここではまだ村娘としか認識されていない)が、相手にふさわしい花を贈るシーンがある。これは狂気のオフィーリアが花を贈るシーンと対応している。オフィーリアのそれは悲しみと哀れさが胸に迫ったが、こちらの姫は、明るく快活で愛らしい。(原作にも、このシーンがあるのかどうか、調べてみたい)

物語は、姫と王子が姫の故郷に行き、そこで身元がわかり、妃も蘇って大団円となる。

さて、夫婦の愛と献身。それより大きな視点とは何か。

苦しみ、痛みで極限まで疲弊し、悲しみが長く続くあいだにも、その悲しむ身の知らぬ場所で、恐れを知らない若い命が芽を吹きまっすぐに育ちつつあったのだ。その自然の摂理の美しさに、この作品は気づかせてくれる。人の私的な感情や行為を包みこみ、繊細に並べかえていく自然の摂理。

時の癒し。それは、自然の摂理のことだ。悔恨と絶望に沈潜するとき、どこか知らない場所の氷原で、無垢であたらしいものが氷を破って芽生えている。あるいは耳をすませば、永遠に変転するしかないさだめそのものに、微かな気配と希望を感じとることができるのかもしれない。

『冬物語』には一瞬にして16年経過するという大きな時間の流れがあった。
シェークスピア最晩年の『テンペスト』(嵐)は、主人公のプロスペローが風の精エアリエルを疾駆させる。

いずれにも、時間や空気の大きな流れがあり、小さな視点から離れて大いなるものへと一体化し、また小さな視点へと回帰していく動きがある。俯瞰する視点と現実世界へ帰着する視点、そのふたつの視点を持てば、美しい摂理の中の人の営みが見えてくる。ここにおいてこそ、「愛」といおう。「献身」といおう。
悲しみの長い時間を経るうちに癒されていく、そのことを見ていたシェークスピアの晩年を思う。その窓辺にはいつも宇宙があった。

『冬物語』名演小劇場で2月10日まで上映。
ブラナー・シアター・ライブ第2弾『ロミオとジュリエット』同じく名演小劇場で2月18日〜2月24日まで上映。






[2017/02/07 15:51] | 映画
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